もう辞めるんだ
残念だよ。
本当に。いい店だったし、いい面子だった。
寂しくなるね。
たまには遊びに来るよ、だなんててきとうな言葉を返してみたり。
少し引き留めるようなことも言ってくれた。
つい、勘違いしそうになるよ。僕が単なる温々とした大学生で、日々適当に授業をこなして、サークルはやんないけどバイトに友達との遊びに趣味に、それなりに充実した生活を楽しんでいたんじゃないのかって。ついふらっと、もう少しここに留まりそうな気にもさせてくれる。
仮面浪人だっていう本音は隠して築いてきた関係だけど、それ以外のことはいろいろ話した。別れを前にして今、仮面浪人の決意が一番揺らいだよ。バイトの時間が楽しかった。ありがとう。君がいて夜が楽しくて、閉じこもりがちな世界を少しずつ広げてくれた。酒の趣味が良かった。
こうして人と関わる場を一つ閉ざそうとして出てくるのは後悔ばかり。もっと仲良くなる機会はあった。飲みも殆ど断った。受験勉強のためには全く正しくて、今でも同じように断るはずのことなのに残念な気持ちがあり続ける。「もしも」がよぎっては中途半端な自分を責める。それが現れるのは僕が弱って卑屈になっている時ばかりだけど、今のはいい奴らだったからだって信じたい。
こうしてここを去ろうとして見えてくるのは自分には何もないという虚しさ、それと向かう先だけ。